銀座3丁目ガス灯通りの真ん中に小さなバー
白カラス亭がある。午前2時
を過ぎて、全く特徴のない中年男性が現れた。地味なグレーのスーツにウールのベスト、茶色のネクタイと、どれを取っても、小さな町の役場の庶務課長さんにしか見えなかった。なんと、なんと、この銀座でも有名な和食割烹の板長の山口氏であると思い出すのに、僕も少々時間が掛かった。デンマークのラガービール”ツボルグ”
を3本立て続けに飲み干して、もっと強い酒が今度は欲しいと仰った。
「どのようなお酒がお好みでしょうか?ウィスキー、ジン、ウォッカ、ブランデー、焼酎、その他色々ございますが・・・・・。」
「今、言った物以外には何かあるかぃ?」
このまるで特徴の無い、風貌の揚がらない山口氏は相当な酒豪のようだった。
「そうですね、アブサンはもう禁止されて久しいですが、その薬草系でアニスの香りを付けたフランスのパスティス、ペルノ、リカール等は5倍の水で割って飲みます。あと似たような系統ではギリシャのウゾもいいですね。ここいらの酒は、大体45度前後ですね。もっと強いのがよろしければ、中国の白酒で珍品茅台酒が、53度ですが・・・。」
僕は一本、一本飾り棚から手に取って、山口氏に見せた。
「アニスの香りってことは、豚の角煮に使用する八角のことだね。」
流石板長さんだけあって、料理に詳しいのは当たり前だ。
「では、リカールの水割りを貰おうか。」
「はい、承知しました。通常はこの酒は食前酒として飲まれることが多いのですが、特に食べる物は何も・・・・・?」
僕はリカールの透明な液体を氷の入ったタンブラーに注いだ。そして5倍の水で割った。透明だったリカールがさっ、と白濁した。
「食べ物は何も必要無い・・・。うん、確かにアニスや他の薬草類の香りが凄い強い酒だ。ちょっと、この香りは鼻に付くねぇ。」
「確かにそうですね。でも、飲みなれると癖になるそうですよ。」
また、山口氏は無言になった。そっと白濁したリカールを再び口中に流し込んだ。喉仏の上下で、彼が酒を飲んでいる事を僕は知った。静寂の中で、パット・ブーンの曲
だけが静かに流れていた。
「ねぇ、白カラス亭さん、そのぅ・・・つまんない話だけど聞いて呉れるかぃ?」
山口氏が板長には似合わない、優柔不断な顔でぼそり、っと言った。
「ええ、こんな小さなバー
のマスターごとき私で良ければ、なんなりと・・・・。」
「ああ、有難う。今夜は誰かに聞いて貰わなければ、この胸の中が、どうにかなってしまいそうだったんだ。」
中肉中背、顔も頭も何もかも、余りに特徴の無い山口氏が初めて、顔に表情を現した。どんな言葉がこの特徴の無い板長さんの口から出てくるのか、僕は固唾を飲み込んで、身を乗り出した。
山口さんちのつとむくん(?)は一体何を悩んでいるんですかね〜?
度数の高いお酒・・
記憶喪失?の過去を持つ私は怖くて現在飲んでおりません(笑)
他人のしかもバーのマスターに話すことで少しでも精神的に楽になりたいなんてどんな話なんだろう。家族のことなのか仕事のことなのか、続きが早く読みたいです。
私はお酒があまり飲めないんですけど、飲みすぎるとほんとに前の日のこと覚えていないのかなー
悩んでいる時って、以外と身内の人には話しずらいものがあるんですよね。山口さんは、カラス亭に何を聞いて貰いたいんですかね。
前の日の事を忘れるくらいの方が、良い場合もありますよね。本当は山口さんは、そうして忘れたいのかも知れませんね。
話を聞いてくれる相手がいるのは幸せですよね。白カラス亭もそんな場所なんですよねぇ。
山口さんの悩み何だろう?次回も楽しみにしています。
仰る通りですね。聞いて貰うだけで良い場合がほとんどなんですから。何故なら、答えは自分の中で決まっているんですよね。白カラス亭はそんな悩みを聞いて差し上げる場所でもあります。
読まさせていただきましたがついついニヤリとしてしまいました
ディテールが細かいですね
飲食業界で働いて16年くらいになりますが、まるで自分の過去のbarでの経験をそのまま書かれてる気分になりましたw
この一ページだけでそう感じさせるとは
さすがです
和食と聞くと吉兆やなだ万が思い浮かびます
山口氏はどこの板長なんでしょう
気になります
でも頭の中は、お風呂に入浴剤を入れるシーンですwww
そうそう!パット・ブーン!探して聴いちゃいましたよ。
私もC社に入る前は会員制クラブの料飲部に17年勤務しておりました。きっとお会いしたら、お話の通じる部分がかなりあるのではないでしょうか?お会いしたいものです。
その通りですよ、お風呂に入れる入浴剤が白濁する感じです。でもリカールは癖の強い酒ですから、どこかで飲んでみて、飲めそうだったら1本購入してみては如何でしょうか?高い酒ではないですよ。